私は人との交流が苦手でした。
必要ない限り目を合わさないようにして、関わりを持たないようにするのが常でした。
夫は私と違い知らない人に話しかけます。
お店のレジの人とも普通に雑談をするのです。
たった一瞬だけど生まれる人間的な交流。
それを見ていて、人と関わるのも悪くないかもと思うようになりました。
ある日夫と路線バスに乗った時のことです。
「旦那さん、いい男だね。」と話しかけてきた初老の男性がいました。
茶色のハンチング帽に茶色のサングラス、人懐っこそうな笑顔を浮かべています。
おじさんは続けて「旦那さん、なにどし?」と聞いてきます。
私はちょっと面食らいながら「丑年です。」と答えました。
そこからおじさんは丑年は真面目で浮気しない、私の卯年は夜遊びして浮気するだのと話がとまりません。
私は思い立って「お父さんの干支はなんですか?」と聞いてみました。
するとおじさんは酉年で特徴はちゅんちゅんうるさい、と言うではありませんか。
まさにおじさんのことだと思いぷっと笑ってしまいました。
バスを降りてこの短いやりとりを思い返しました。
オチも面白かったけど嬉しかったのは、そこにひと時の交流があったことです。
おそらくおじさんにまた会うことはないでしょう。
でも確かに楽しい交流をしたのです。
人との交流が苦手だった昔を思い出し、こんなことが楽しめるようになったと嬉しくなったのでした。